不思議で怖い話

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山道の怪談

2024/06/06

大学時代、サークルの友人と二人で深夜のドライブをしていた。
思いつきで隣の市のラーメン屋に遠出して、その帰り道に、くねくねと蛇のようにうねる山道を通った。
昼間は何度か通ったことがあったが、夜になると、これが同じ道かと思うくらい無気味な雰囲気だった。
ハンドルを握っていたのは俺だったが、わりとビビリのほうなので、運転を代わってもらったほうが気が楽だった。
しかし友人の山根は、ラーメン屋で勝手に一杯ひっかけていたので、助手席で無責任な軽口を叩くばかりだった。

「ここの峠って色々変な話があるよな」

急に山根が、声をひそめて囁いてきた。
俺は聞いたことがなかったが、『何なに?どんな話?』なんて聞くとヤツのペースだと思ったので、
興味ない風を装って「ああ」とそっけなく返した。
山根はなぜか俯いて、しばらく黙っていた。

二車線だが対向車は一台も通らない。
申し訳ていどの電灯が疎らに立っていた。
無言のまま車を走らせていると、急に大きな人影が前方に見えた気がして一瞬驚いたが、
道端に立っている地蔵だと気付いてホッとした。

このあたりに、なぜか異様に大きな地蔵があるのは覚えていた。

その時、黙っていた山根が口を開いた。

「なあ、怖い話してやろうか」

この野郎、大人しいと思ってたら怪談を考えてたな。
と思ったが、『ヤメロ』なんて言うのはシャクだったので、「おう、いいぞ」と言った。
山根は俯きながらしゃべり始めた。

「俺の実家の庭にな、小人が埋まってるらしいんだよ。
 じいさんが言ってたんだけど。俺の家、古いじゃん。
 いつからあるのかわからない、へんな石が庭の隅にあってな。
 その下に埋まってるんだと。
 で、じいさんが言うには、その小人がウチの家を代々守ってくれている。
 その代わり、いつも怒っていらっしゃるので、
 毎日毎日水をやり、その石のまわりをきれいにしていなければならない。
 たしかに、じいさんやお祖母ちゃんが、毎日その石を拝んでいるけど、
 そんな話ってあるのかなあと思って、
 小学生の頃、病院で寝たきりだった曽祖父に、見舞いに行った時に聞いてみた。
 曽祖父も、ちゃんと小人が埋まってると教えてくれた。
 それも、ワシのじいさんから聞いたと言っていた。
 子供にとっては気が遠くなるほど昔だったから、
 こりゃあ本当に違いないと単純に信じた」

山根は淡々と話し続けた。
こんな所でする怪談にしては、ずいぶん変な話だった。
山根は言った。

「小人って、座敷わらしとかさ、家の守り神のイメージあるよな。
 でも、埋まってるってのが変だよな。
 俺、曽祖父に聞いてみたんだよ。なんで埋まってるのって」

そこまで聞いた時、急に前方に人影が見えて、思わずハンドルを逆に切ろうとした。
ライトに一瞬しか照らされなかったが、人影じゃなかったみたいだった。

地蔵だ。

そう思ったとき、背筋がゾクッとした。一度通った道?
ありえなかった。道は一本道だった。

「曽祖父はベットの上で両手を合わせて、目をつぶったまま囁いた。
 むかし、我が家の当主が、福をもたらす童を家に迎え、大層栄えたそうな。
 しかし、酒や女でもてなすも、童は帰ると言う。
 そこで当主は、刀で童の四肢を切り離し、それぞれ家のいずこかへ埋めてしまった」

俺は頭がくらくらしていた。
道がわからない。
木が両側から生い茂る景色は変わらないが、
まだ峠から抜けないのはおかしいような気がする。
さっきの地蔵はなんだろう。二つあるなんて記憶に無い。
車線がくねくねと、ライトから避けるように身をよじっている。
山根は時々思い返すように、俯きながら喋りつづける。

「それ以来、俺の家は商家として栄えつづけたけど、
 早死にや流行り病で、家族が死ぬことも多かったらしい。
 曽祖父曰く、童は福をもたらすと同時に、我が家をこんこんと祟る神様なんだと。
 だからお怒りを鎮めるために、あの石は大事にしなければならん、と」

よせ。
「おい、よせよ」
『帰れなくなるぞ』と言ったつもりだった。
しかし、同じ道をぐるぐる廻っているような気がするのと、山根のする話とどうも噛み合わなかった。
最初に言っていた『この峠の色々変な話』ってなんだろうと、ふと思った。

山根は続けようとした。
「これはウチに伝わる秘密の話でな、本来門外不出のはずなんだけど・・・」
「オイ、山根」
我慢できなくなって声を荒げてしまった。
山根は顔を上げない。
悪ふざけをしてるようだったが、よく見ると肩が小刻みに震えているようだった。

「この話には変なところがあって、俺それを聞いてみたんだ。
 そしたら曽祖父が、おまじない一つを教えてくれた」
「山根。なんなんだよ。なんでそんな話するんだよ」
「だから・・・・」
「山根ェ!車の外が変なんだよ、気がつかないのか」

俺は必死になっていた。

「だから・・・・こういう時にはこう言いなさいって。
 ホーイホーイ
 おまえのうではどこじゃいな 
 おまえのあしはどこじゃいな
 はしらささえてどっこいしょ
 えんをささえてどっこいしょ
 ホーイホーイ」

心臓に冷たい水が入った気がした。
全身に鳥肌が立ち、ビリビリくるほどだった。
ホーイホーイという残響が頭に響いた。
ホーイホーイ・・・・呟きながら、俺は無心にハンドルを握っていた。

見えない霧のようなものが、頭から去っていくような感じがした。
「頼む」
山根はそう言って両手を合わせたきり黙った。
そして気がつくと、見覚えのある広い道に出ていた。
市内に入りファミリーレストランに寄るまで、俺たちは無言だった。

山根はあの峠のあたりで、助手席のドアの下の隙間から、顔が覗いているのが見えたと言う。
軽口が急にとまったあたりなのだろう。
青白い顔がにゅうっと平べったく這い出て来て、ニタニタ笑い、これはやばいと感じたそうだ。
俺に話したというよりも、自分の足元の顔と睨み合いながら、あの話を聞かせていのだ。

彼の家の人間が危機に陥った時のおまじないなのだろう。
「家に帰ったら、小人にようくお礼言っとけよ」と、俺は冗談めかして言った。
「しかし、お前がそういうの信じてたなんて、意外な感じだな」
と素直な感想を言うと、山根は神妙な顔をして言った。

「俺、掘ったんだよ」

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