不思議で怖い話

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無愛想な建物

2019/03/23

バイクの話で申し訳ないんですが。
一昨年の夏、北海道にツーリングに行ったんです。
あさってはいよいよ東京に帰るっていう日のことです。
ちょっと足を延ばしすぎてしまったんですね。
夕方頃に着いた街で一泊すればよかったのに、
「もうちょっと先まで行ってやろう」
なんて欲をかいたのが間違いだった。
行けども行けども、
次の街なんて見えてこないんです。
街どころか、人家すらいっこうに見当たらない。
日もどんどん暮れてくる。
「そのうちに、泊まるところぐらい見つかるだろう」
なんて考えたのが、いけなかった。
北海道の広さを、甘く見ていました。
星明りだけの、ほとんど真っ暗闇の中を、
ずーっと一人で走っていました。
そのうち、前方に大きな建物が見えてきました。
最初は、学校だと思ったんです。
よく考えれば、こんなド田舎に、
そんなに大きな学校があるわけないんですけどね。
(今夜はここの軒先で野宿させてもらおう)
と思って、敷地の中に入っていきました。
敷地に入ってみると、
どうやら学校ではなさそうです。
(どこかの会社の研究所かな?)
とも思いました。
鉄筋コンクリートの、比較的大きな、
無愛想な建物なんです。
灯りも何にもついていなくて、
建物のシルエットだけが、
星空をバックにして黒く浮かび上がっている。
それにしても、
人間社会の生活に関わっているような匂いが、
全く感じられない建物なんですよね。
ところが近づいてみると、中から
「ザワザワ、ガヤガヤ」
と、大勢の人がいるようなざわめきが聞こえてくる。
(ここはどこかの会社の社宅かもしれいな。
事情を話せば、泊めてもらえるかも)
なんて呑気なことを考えて、
ノコノコ近づいて行きました。
でもね、そこでふと足が止まったんですよ。
「おかしいぞ」
と思って。
だって変ですよね。
建物には、灯り一つついていないんですよ。
「非常口」の緑色のランプが見えるだけで、
窓は全部真っ暗なんです。
時計を見たら、夜中の一時を過ぎている。
そんな時間に、大勢の人間が起きてることなんて、
普通はあんまりないですよね。
それなのに、相変わらず中からは
「ザワザワ、ガヤガヤ」
聞こえてくる。
最初は
「宴会でもやってるのかな」
なんて思ったんだけど、
どうもそんな楽しそうな雰囲気じゃない。
大勢の人間が、
めいめい好き勝手なことをつぶやいている。
ひょっとしたら、
みんなして念仏でも唱えているんじゃなかろうか……。
そんな感じなんです。
……気配って、確かに感じるんですね。
私のすぐ目の前、
1メートルばかりのところに、
建物の出入り口があります。
粗末な鉄製のドアで、
上に「非常口」の緑色のランプがある。
その灯りだけが、
辺りをボーっと照らしている。
そのドアの向こうに誰かがいるような気配が、
はっきりと感じられるんです。
(いる。絶対にいる。
間違いなくこのドアのすぐ向こうに、誰かが立っている……)
くり返しますけど、私とドアの距離が、
ほんの1メートルですよ。
そのドアのすぐ向こうに、
へばりつくようにして誰かが立っている。
見たわけじゃないけれど、確かに感じるんです。
そして建物の中からは、相変わらず
「ザワザワ、ガヤガヤ……」
その頃には、大体状況が把握できるようになりました。
人がいるのは、ドアのところだけじゃない。
真っ暗な窓という窓の向こうに、
大勢の人がいて、みんなで私を見つめているようなんです。
ブワー!って、一瞬にして全身の毛が逆立ちました。
バイクのところまで、すっ飛んで帰りましたよ。
ブルブル震える手で
キーを差し込もうとしたんだけれど
なかなか入らない。
やっとのことでエンジンがかかったら、
後はもう一目散。
絶対にミラーを見ないようにして走り続けました。
どれほど走ったのか記憶がないけど、
ようやく前方に赤いランプが見えてきた。
派出所でした。
お巡りさんは、いました。
考えてみれば、
ここ七、八時間の間に、
ようやく出会えた本物の人間です。
私はよっぽど蒼白な顔をしていたらしくてお巡りさんは、
最初私が犯罪にでも巻き込まれたのかと思ったようです。
ゆっくり事情を聞いてくれました。
しかし私の話を聞いた後、
彼は同僚と額を突き合わせて、
何やらボソボソと話してるんです。
「ウソだろ?」
「マジかよー!」
なんて小声で言ってるのが、聞こえてくる。
目の前でそんなふうに言われたら、
誰だって気になりますよね。
私は、
「どういうことなんですか?教えてください!」
って聞きました。
するとお巡りさんは、
私の顔をまじまじと見つめて、
こう言ったんです。
「君ね、この街道沿いにある大きな建物っていったら、
一つしかないんだけど、それって火葬場なんだよ……」

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