黒い街宣車
2019/03/21
学校故障公園体験廃墟布団屋上不気味鳥肌人影ゴーストタウン夏休み怪談ゲームテレビ
俺が中学1年の頃の話。
その頃俺は、某県某市(西の方ね)の団地の4階に、
家族4人(両親と弟)で住んでいました。
団地は街の隅っこの山の上にあったんだけど、
この団地が今考えても結構不気味でさ。
ボロいわ、汚いわ、入居者もいないのに棟数だけはやたら多いわで、
ぱっと見で廃墟みたい。
敷地が無駄に広い上に、すぐ後ろは山、前は寂しい住宅街だったから、
夜中になったらもうゴーストタウン同然なんだよ。
夏休み中も、近所のガキが肝試しに使うような場所。
エヴァンゲリオンの綾波レイの住んでいる所みたい、
って言ったら分かる人いるかも。いないか。
まあそんな所だから、廃棟の屋上に人影が見えるとか、人魂が漂っているとか、
そういう怪談話には事欠かなかったよ。
そういうの、俺は結局一度も見えなかったけど。
で、俺が変な体験したのは11月の頭。今よりちょっと早い時期だな。
その日俺は風邪をひいて、学校を休んだ。
熱なんてほとんど無かったはずなんだが、とにかく気分が悪くて、
何を食ってもゲロ、何を飲んでもゲロ、って状態だったと思う。
それと、耳鳴りがヤバかった。
テレビとかで放送禁止用語に被せる「ピー」ってSEがあるけど、
あれに良く似たヤツが、耳の奥でちっちゃく鳴り続けている感じ。
後にも先にもあんな耳鳴りは初めてだったから、良く覚えている。
平日だったから親父とおふくろは仕事、弟は小学校へ行き、
一人っきりになった俺も、午前中は黙って寝ていたんだけど…。
吐き気と耳鳴り以外に体の変調も無かったし、
昼過ぎにはもう退屈して起きちまったのね。
で、テレビみたり漫画読んだりゲームしたりしながら、
時間をつぶしていたんだ。
変な出来事が起きたのは、4時40分ジャストくらい。
時間は多分正確だと思う。
弟がなかなか帰ってこなくて、
「遅ぇなぁ」
って窓際の時計を見上げた記憶があるから。
だから、外の天気もはっきり覚えている。
気持ち悪いくらい西陽が眩しかった。
独りきりの夕方って、夜中なんかよりもよっぽど静かなんだよな。
昔の人が逢魔ヶ時って呼んでいたのも分かる気がする…
不気味な空気が漂っているというか。
あの時も、早く弟に帰ってきて欲しかったんだと思う。
そん時俺は、セガサターンのバーチャファイターに興じていたんだけど、
突然テレビが、音飛びと同時にノイズまみれになったんだ。
ノイズって普通、画面全体をザァーって覆うと思うんだけど、
そん時のノイズはなんか変で、
モニターの真ん中から発生して同心円状に広がっていく…っていうのかな。
うまい事言えないんだけど、
池に石を投げ込んだら波紋が広がる、って感じに似ていた。
ちょっとしたらノイズは消えるんだけど、
しばらくしてまた真ん中が歪む⇒ノイズが外側へ向けて広がっていく、
ってのが何度か続いた。
最初はテレビの故障かなとも思ったんだけど、
あんまし規則的に続くもんだから不気味になってきて。
それでテレビ消そうと思ったら、俺が触るより早く突然電源が落ちた。
もうこの時点で泣きそうになった(と思う)んだけど、
電源が落ちた途端に耳鳴りの音が急にデカくなって、
思い出して勝手に鳥肌立ってきたんだけど…
耳鳴りの音質が明らかに変わったんだよ。
「ピー」っていう高音から、「ブーン」っていう低音に。
ともかく、子供心にもこりゃヤバいって気がして、
テレビから離れようとしたんだ。
そん時、窓の下に何か黒っぽい塊が見えてさ。
そこは団地と団地の間に挟まれた中庭みたいな所で、
小さな公園になっているんだけど、
公園の隅っこに1台、真っ黒でバカでかい車が止まっているんだよ。
街宣車にそっくりだったのをハッキリ覚えている。
あの軍歌とかゴジラ流しながら爆走しているヤツね。
ただ、ボディペイントとか日の丸なんかは全く何もなくて、ただ真っ黒なだけ。
それが西陽の中で、捨てられたように佇んでいるんだ。
で、魅入られたみたいに眺めていると、
暫くしてスピーカーから音が流れ出してきたんだ。
流れてきたのは軍歌でもゴジラでも無く、陰気な声だった。
『チチ(父?)は…○○○、ハハ(母?)は…○○○(○は意味不明)』
みたいな事をブツブツ呟いていた。
何度もチチとハハって言葉が聞こえたから、
同じフレーズを繰り返していたのかもしれないけれど、
なんせ声は小さいし、低くこもっているし、意味は全く分からなかった。
声と連動して耳鳴りも段々大きくなってきて、唸り声みたいになってくるし。
その後なんだけど、
耐えられなくなった俺が泣きながら布団に頭突っこんで、
耳塞いで「あー」って怒鳴って、耳鳴りの音を掻き消しながら暫く耐えていたら、
やっと弟が帰ってきた。
弟に布団を引っぺがされた瞬間は、心臓が止まるかと思ったけど。
で、気付いたら耳鳴りは止んでいて、
窓の外を見ても街宣車の姿はどこにも無かった。
弟に聞いてみても、ありがちなオチだけど、
そんな声も車も知らないって言われた。
以上が俺の経験した中身です。
書いたの見てみると、あんまし怖くないな。
でも、俺個人としてはほんのりどころか、
メチャメチャ怖い出来事でした。
結局あの車が何だったのか分からずじまいですが、
今でも街宣車と夕焼けは苦手です。
団地にはもう誰も住んでいませんが、物自体はまだあります。