不思議で怖い話

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行方不明の同級生

2018/11/25

ひとりで青森へ出張に行ったときのことだ。
出張先は青森市郊外のさびれた一角にある小さな家電販売店で、
夜、打合せが終わったあと、店のオヤジと、
近所のうらぶれた居酒屋で飲んで別れた。
かなり寒い夜で、俺は震えながら
市内のビジネスホテルにむかって、
さびれた街路を歩いていた。
上を自動車道路が走っているうす暗い高架下を歩いていたとき、
むこうから俺と同じような、くすんだコートを着た瘠せた男が、
酔っているらしく、よろけるように歩いてくるのが見えた。
男は、うす暗いなか、
俺の顔をじっと見ているようだ。
俺もその顔に見おぼえがある気がして、
「N、か?」
と、名を呼んでみた。
Nは中学時代クラスにいた、
ワルの使いっ走りのような奴だった。
万引きで警察に補導されたり、
教室での窃盗がバレて
担任に張り飛ばされたりしていた。
彼はうなずき、
「○○?」
と俺の名を言った。
何年かまえに地元の知人から、
Nは中学を卒業してすぐ家出をくりかえし、
現在は行方不明であると聞いていた。
「いま何してるんだ?」
俺はきいたが、Nはそれには答えず、
「気分がわるい」
とつぶやき、
いきなりうずくまって吐いた。
俺はあわててNの背をさすり、
どうしたものかと戸惑っていた。
Nは立ちあがると、
たまたま通りかかったタクシーを停めて乗り込み、
「近いうちに□□に戻るので、そのときに連絡する」
と言って、そのまま走り去ってしまった。
その半年ほどたって、
地元の中学時代の知人と再会したときに、
Nの話が出た。
知人は、Nが札幌でキャバクラのボーイをしていて、
2年前に心臓麻痺で死んだ、と言った
俺は、半年前にNと会ったことを話し、
その話自体が間違いであるか、
死んだのは最近なのではないか、と告げた。
知人は、2年前の当時に、
直接Nの親族から死亡の話を聞いたと言う。
何とも言いいがたい気分で、俺は知人と別れた。
それから2週間ほどした夜中に、
俺は電話で起こされた。
俺はひとり暮らしで、
受話器はベッドから手を伸ばせばとどく位置にある。
闇のなか手さぐりで受話器をとると、
混線しているのか、ひどい雑音のむこうから、
途切れ途切れにNの声が聞こえてきた。
いま、□□に着いた、と言っているらしい。
俺は
「よく聞こえない。車できたのか?」
と聞くと、
やはりひどい雑音のむこうから、
途切れ途切れの声で、
いま、□□に着いた、と繰り返した。
「よく聞こえない。□□のどこに着いたんだ?」
と再度聞くと、
Nの声はそこで途絶えた。
いく度か
「もしもし」
と呼んだが、
あとはただ雑音が続くだけだった。
不安な気分で受話器を手さぐりで戻し、
闇のなかで寝返りをうった。
見上げると、ベッドの脇にNが立ち、
青ざめた顔で俺を見下ろしていた。
俺は声を出そうとしたが、
舌がひきつって動かなかった。
足元から全身に、
何かがのしかかるような重みがかかり、
身動きができなくなっていた。
激しい恐怖感におそわれて、
全身から汗がザアッと出た。
パニックのなか、もがこうとしているうちに、
叫び声をあげている自分に気がついた。
Nの姿はなく、体が動くようになっていた。
俺は部屋の電気をつけ、
それからTVをつけて
深夜番組のボリュームを上げた。
番組の内容などどうでも良かった。
何でもいいから明るい世間の気配と
つながっていたかった。
明け方、空が白みはじめて、
ようやく少し落ち着いた。
Nの死亡については、
今日まで確認していないし、するつもりもない。

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