不思議で怖い話

不思議で怖い話

本文の文字サイズ

カーテンの向こう

2018/12/08

俺は窓を少しだけ開けておくのが好きでね、
寒さが厳しい季節以外は
だいたい10センチくらい空けておく。
まあ単純に外の音とか臭いが好きだからなんだけど。
あのときも、いつも通り
窓を少しだけ開けてテレビを見てた。
春先だったからときどき生温い風が入ってきた。
カーテンがヒラヒラ揺れてね。
午前1時過ぎのこと。
どこか遠くで猫が鳴き出した。
春の風物詩。
発情期の猫は結構野太い声で鳴く。
うなるように、絞り出すように。
当時、俺が住んでたのは
ワンルームマンションの2階で、
建物の向こうには小さな畑を挟んで
深い森が広がっていた。
とは言っても、
別に嫌な感じがするような森ではなくてね、
風に吹かれてゆっくりと揺れる木々を見ていると、
不思議と心が落ち着いた。
ふと気が付くと、
猫の鳴き声が徐々に近づいてきていた。
よっぽど発情してるのか、
かなりドスの利いた、
低くて重たい鳴き声だった。
テレビの画面では見たことのない芸人が
笑えないコントを続けていた。
まるで取って付けたような客の笑いが
空々しく響き渡っていた。
少し眠たくなる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぅ・・・」
一瞬、身体がビクリと硬直した。
猫だ。
猫が、窓のすぐ外で、鳴いている。
いや、ちょっと待てよ。
このマンションにはベランダがない。
窓の外にはアルミ製の手すりがあるだけだ。
おまけにここは2階じゃないか。
「おあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぉぉぉ・・・」
いや、これは、猫の声じゃない。
人だ。
人間の声だ。
そう思った瞬間、全身に鳥肌が立った。
あまりの緊張感で身体が動かない。
俺はありったけの勇気を振り絞り、
窓のほうに目をやった。
誰かが、そこにいる。
カーテンは微動だにしていなかった。
テレビのスピーカーから空虚な笑い声が響いた。
部屋の空気がピタリと動きを止めた。
「あ゛あ゛ぁ・・・」
「誰だ!」
とっさに俺は立ち上がって窓際に走り寄ると、
力任せにカーテンを開けた。
目が合った。
窓のすぐ外にいたあいつと、
わずか30センチの至近距離で目が合ってしまった。
それは生きた人間の目ではなかった。
ライチのようなドロリとした質感をしていた。
「・・・ぃぃぃぁぁあああ」
俺は口を大きく開け、
まるで猫のような甲高い声を上げていた。
そのあいだも目を逸らすことができなかった。
身体は凍りつき、両手が大きく震えた。
恐いなんてものじゃない。
あれは絶対に見てはいけないものだった。
数秒後、俺は腰から砕けるように後ろに倒れた。
硬直した右手で掴んでいたカーテンが
バチバチと大きな音を立てて外れた。
目覚めると朝だった。
窓の外には気持ちの良い青空が広がっていた。
俺の右手にはまだカーテンがしっかりと握り締められていて、
一方のカーテンの端が
かろうじてカーテンレールに引っかかっていた。
後日談。
大家の話では、その数年前、
マンションの前の森で首吊り自殺があったらしい。
首を吊ったのは20代の女性で、
失恋を苦にしての自殺だったそうだ。
新聞にも載ったのだという。
俺が引っ越してくる直前の出来事だったようだ。
なるほど。
世の中いろんなことがある。
時には想像を絶する恐怖も。

にほんブログ村 2ちゃんねるブログ 2ちゃんねる(オカルト・怖い話)へ

よろしければ応援お願いシマス

怖いコミック

  • 変な絵(コミック)
  • 【シリーズ累計160万部突破! 『変な家』の著者・雨穴の最高傑作を完全コミカライズ、新章スタート!】高校の美術教師・三浦義春がK山の山中で殺害された。現場には、三浦が最期に描いた...
  • たちよみ

怖い映画作品

  • 貞子3D2 貞子の呪い箱弐(数量限定生産) (ブルーレイディスク)
  • 瀧本美織の映画初主演となるホラー第2章。‘呪いの動画’から5年。茜と孝則の間には娘・凪が生まれたが茜は出産後に死亡、孝則は妹に凪を預け隠遁生活をしていたが…。スマホ連動型‘ス...
  • 2013年 / 瀧本美織 瀬戸康史 山本裕典 田山涼成 大西武志 大沢逸美 石原さとみ 平澤宏々路

怖い作品

怖いキーワード