不思議で怖い話

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解剖実験

2025/02/15

太平洋戦争も終わりを迎えようとしていた頃、
K大学医学部では、世にも忌まわしい、ある「実験」が行われていた。
敵兵捕虜の「生体」を利用した解剖実験である。

S博士を中心とした研究班は、まるで実験動物か何かのように、
軍から送られてくる敵兵を生きたまま切り刻み、器官・臓器を摘出。
ホルマリン漬けにしたそれを大量に並べ、他の研究班員らと共に悦に入っていたという。

しかしこの狂気の沙汰も終戦と共に終わりを告げる。
辛くも戦犯追求を逃れたS博士は大学を辞し、開業。医学者として名声を得ていた
S博士の病院はたちまち市民の好評を得て、現在まで存続している。

S博士は終戦後、数年して亡くなり、その息子であるS氏が院長に就任した。
S院長には二人の息子と一人の娘がおり、代々医師の家系である名に恥じず、
二人の息子は医師に、娘も医師は断念したが、教員の道を選んだ。

…しかし順風満帆かに見えたSの一族に「過去からの影」が迫り始めたのは、
実に戦後半世紀近くを経てからであった。

S院長の長男は、その日も、朝食もそこそこに、市内の高層マンションから慌しく出勤していった。
妻とまだ小学生の息子、そして最近やっとよちよち歩きを始めたかわいい娘。
殺人的に多忙ではあたったが、長男にとって家族はかけがえのない存在であり、
心の癒しだった。

祖父が設立し、自分の勤務先でもある病院に向かった彼は、勤務先のいつもと違う雰囲気に
違和感を覚えた。顔なじみの看護師が彼を見つけるやいなや、青い顔をして駆け寄ってくる…
急変か?嫌な予感がする。

彼女の話を聞き終わるか終わらないかのうちに、衝撃で彼の頭の中は真っ白になった。

…妻は泣きじゃくるばかりで、警察の事情聴取にもまともに応じられない有様だった。
彼とて同じ気持ちだ。「なぜ息子が…」さっきから同じ思いが去来する。
反抗期だが他の子供と変わったところも感じなかった。
人一倍妹をかわいがっていたあの子がなぜ…?

ようやく妻が語ったところによると、彼が出勤してからしばらくして、台所にいた妻の耳に
「○○ちゃん!パパが帰ってきたよ!窓からおてて振っておむかえしよう!」
という息子の声が聞こえたそうだ。

彼が忘れ物でもしたのかといぶかしんだ妻が、リビングの子供たちのところに
行き眼にしたのは、ベランダで幼い妹に「たかいたかい」をする息子の姿だった。
「危ない!」妻が駆け寄ろうとしたとき、息子がこちらを見て、かわいい妹を抱き上げた手を、
外に向かって離した…
そこまで言うと妻はまた泣きじゃくりはじめた。

S院長の次男は少々放蕩が過ぎる人物だった。
あちらこちらに愛人を作っては捨てるような、そんな男。
次男にとっては、最近付き合い始めたDも、特別な思い入れもない数いる愛人の一人でしかなかった。
…はずだった。

父の病院での当直明け、次男はフラフラする頭を抱えながら、自分がDにあてがっている
マンションにたどり着いた。Dは美容師で、比較的年増ながらもよく気がつく女で、
次男は彼女を気に入っていた。

オートロックを解除し、昨晩洗っていない髪を掻きながら次男はDの部屋のチャイムを鳴らした。
いつもであれば、笑みを浮かべて「お疲れさま」と迎えてくれるD。
…いないのか?次男はノブを回してみる…開いた。…いるのか?無用心にも程がある。
ここは元々俺の持ち物…にしてもなんだよこの臭いは…鈍った頭で次男はそう考えた。

「おい!いるのかぁ!?」…玄関を上がる。それにしてもくせえな…
「おい!!××!寝てんのか?」…廊下をたどる。いやこれは…嗅ぎなれた臭い…
「かくれんぼでもしてるつも…」…リビングに通じるドアを開ける。この錆びたような臭いは…

一面の、血の海。

包丁を握り締め部屋と同じく血まみれになったDは、血の海の中から次男に微笑みかけた。
「お疲れ様…ごめんね部屋、こんなに汚しちゃって…」
一瞬次男は混乱したが、彼も医者の端くれ。血を見て妙に冷静になった。
「お前、俺のマンションで何やってんだよ…」

次男は、普段温和なDが、同僚のGについて語るときだけ、妙に攻撃的な態度になることに
気がついていた。機会があったら殺してやりたいとまで、ふざけ半分ながらも語るDの顔を
見たとき、豪胆な次男も少なからずゾッとした気分になったことが思い出される。

すると…血の海の中Dの前に転がる肉塊は、もしや…Dはうなづくと、泣き出しそうな表情になった。
「あなたに迷惑はかけない!絶対!!」
もう充分巻き込まれている。次男は「バカいってんじゃねえよ。隠す方法を考えろ!」
そう叫びながらDの手から包丁をもぎ取り、肉塊に向かった。

結局、事件は発覚し、Dは逮捕された。
週刊誌は「美容師バラバラ殺人事件!事件の陰に医療関係者の存在!?」と書きたてた。
人体をバラバラにしようとしても、相当な力と、関節の場所を熟知していないと履行できない。
「犯人Dの愛人医師に疑惑浮上!?」次男の必死の努力も、どうやら報われなかったようだ。

しかし、そんなことももはや、次男には関係がなかった。
彼は既に「死んで」いた。「自殺」だったそうだ。少なくとも「書類上」は。

…次男の死亡証明書の署名欄には、他ならぬ父親、S院長の名前が書き込まれていた。

では、教師になった長女は?
長女は教師になった後、同僚の男性教師と結婚。三人の男の子をもうけ、幸せな家庭を築いていた。
後に、「毎日家族で庭に出て運動したり、休日は出かけたりと非常に仲がよさそうに見えた。」
と、近所の住民が証言している通り、絵に描いたような「幸せな家族」だった。

長女は満足し、この幸せがずっと続けばいいのに…そう思っていた。

最近、近所で動物の虐待の跡のある死体が見つかったり、女の子が二人暴漢に襲われたりと
何かと物騒な事件が起こっていた。長女とその夫は息子たちと報道を見ながら、
「親の教育が悪い」などと話し合っていたという。

末の弟の同級生の、少し体は弱いが元気いっぱいだったH君が行方不明になったのはちょうど
その頃だった。三人の息子は皆、行き先に心当たりはないという。彼女も何度か会話を交わした
ことがあっただけに、不安が胸をよぎった。

次の日の報道は世間を震撼させた。
「行方不明児童の遺体の一部、小学校の校門にむごたらしい姿で放置!」
「警察に挑戦状!?犯人は…を名乗り、遺体のそばに挑戦状をらしきものを…」

…それから幾日か、彼女は不安な日々を過ごした。
ショックでなかなか食事が喉を通らない。あんなかわいらしい子供を一体誰が…?
息子たちも憤っていた。家族全員が悲しみ、憤っていた。

…チャイムの音。

彼女はやり過ごそうかとも考えたが、気を取り直して応対する。
「…はい…え?…はい……今、なんとおっしゃいました…?」
世間は二度目の、しかも一度目と比べようもない事実の発覚にパニックとなった。

「少年A、14歳。殺人・死体損壊・遺棄の容疑で逮捕」

現在彼女とその家族は、忌まわしいその地を離れ、父の病院に近いD市に居を
移している

S博士は解剖学の偉大な研究者として、医学史にその名を残し、
また、子孫の血にも、はっきりとその形質を受け継がせ続けている。

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